【インタビュー】早乙女勝元さん(作家)-東京大空襲を今に伝える

LINEで送る
Pocket

 

スポンサーリンク



 

2.戦災補償へ向けた取り組み:不条理を今後の世代に残してはならない

 

生きてある限りは戦い続ける

― 戦後、一般市民がどのように戦災からの回復を進めてきたかをお聞きしたいのですが、そのひとつに様々な訴訟があったと思います。東京大空襲訴訟※3は2013年に最高裁で上告棄却されました。今、そちらの動きはあるのでしょうか。

動いていることは動いていますが、とにかくメンバーが超高齢です。司法の道はもうありません。司法の判決の中に、立法において解決すべきもの、とあります。司法の判断を聞こうと思ったのに、逃げられた気分です。私は証人尋問の一番手で出ました。

※3 戦後、旧軍人・軍属に対しては手厚い補償があったものの、一般の戦災被害者には補償はほとんどなされてこなかった。そのため、大規模空襲のあった名古屋、東京、大阪で空襲被害者が補償を求めて相次いで裁判を起こしたが、「戦争で受けた損害を国民は等しく受忍(じゅにん)すべき」という理論のもと、すべて棄却されている。詳しくは下記リンクを参照。
NHK 時論公論 「東京大空襲70年 民間戦災者救済を」
空襲被害者等援護法Q&A

 

―では、立法の方の動きはいかがでしょうか。

議員連盟※4はできましたが、そんなに大勢ではないです。それに会長を務めていただいていた鳩山邦夫議員が亡くなってしまったこともあり、さらに難しくなってしまいましたね。悔やんでも仕方ありませんが、もっと早くに運動を展開できればよかったと思います。私は書く方で東京大空襲の真実を記録化して、後に残そうと1970年から始めていましたが、訴訟の方もそのくらいから始められていれば、道は開けていたかなあと思います。でもみんな生きることで精いっぱいでしたし、難しかったんですよね。どっちみち、生きてある限りは戦い続けるということですね。そうすると誰かが動いてくれる。マスコミの誰かかもしれません。これでおしまいだと言えば、ぷつっと切れちゃう。切れた結果どうなるかというと、なかったことにされかねない。今はそういう時代ですよ。「記録する会※5の運動がなければやっぱりなかったことにされるでしょうね。

※4 空襲被害者等の補償問題について立法措置による解決を考える議員連盟
※5 「東京空襲を記録する会」1970年8月5日結成

 

モノにできなかったチャンス

戦後72年ですが、これまでいろんなチャンスがありました。まず一回目がサンフランシスコ講和条約で、日本が一応独立して、それに付随して軍人恩給がつくようになるわけね。そのときに、軍人の中から、俺たちだけが戦争でひどいめにあったんじゃない。民間人だってやられているじゃないか。そういう人が出てよかったんじゃないか。ドイツはそうですよ。軍人からそういう声が出て、軍人と民間人が平等の扱いになりました。これが一回目。一回目のチャンスを逸したのが大きいと思う。二回目は、カーチス・ルメイの勲一等。空襲をしでかしたアメリカの軍人に最高級の勲章をやるならば、こっちのほうに回してくれっていう言い分だってあってよかったと思う。今からだって叙勲を取り消してくれっていう運動をしたっていいんですよね。いかにも屈辱的な話じゃないですか。世界に例を見ないんじゃないでしょうか。そういういくつかのチャンスがあったんだけど、残念ながらその時点ではまだ原告団は結成されていなかった。

そうこうしている間にみなさん80代の後半ですよ。このところ次々と主要メンバーが病気に倒れています。足腰が動かない人が多くなりました。それでもとにかく頑張っています。

 

スポンサーリンク



 

あきらかな差別であり不条理

だいたい、国民主権の憲法下に私たちは生きているんでしょ。それなのに、どうして軍人だけ、軍属だけそんな手厚いもてなしがされるのか。軍事国家じゃないか。簡単に言えば。民間人はそっちのけというのは、あきらかな差別であり不条理ですね。それは誰だってわかってくれるんです。だって金額が大きすぎるんです。60兆円6近いでしょ。これまでに。加えて、それを受ける軍人・軍属は階級によってもらう金額が違ってくる。それも私はゆるせない。なぜかというと、命は平等じゃないの。一兵卒であろうと、大将であろうと。それを階級で分けるというのは、まさに軍事国家ですね。

※6 「戦傷病者戦没者遺族等援護法」(1952年)、「旧軍人と旧軍属ら及び遺族に支給される恩給」(1953年)などによる補償の総額は2016年現在累計60兆円に及ぶとされる。詳細は以下リンクを参照。
軍人は補償・民間人は我慢 戦後71年、今も残る「差別」

 

爆撃をした指揮者に勲一等をやる国ですからね。民間は民草ですよ。雑草ですよ。そういう不条理は次の世代には残してはいけないと私は思います。だから今の段階でもしも戦争になったら女、子どもたちはどんなことになるのか、知らせないといけない。知ろうとしなければわからないですよね。ほとんどの人は知らないですよ。ずいぶん一生懸命訴えては来たけれど。

 

次は ➡ 3.行政がやってくれないなら、自分たちの手で空襲被害を伝える施設を創ろう





スポンサーリンク