太平洋戦争は日本人だけで約310万人と言われる死者を出し、終わりました。しかし、戦闘は終わっても、民間人の「戦い」は終わっていませんでした。
戦争は国家の意思として行う行為です。したがって、その結果国民が被害を被るとすれば、その補償は国に求められることになります。事実、元軍人や軍属に対しては、戦前から手厚い補償が保証され、戦後の新生日本となってからも、補償は続いています。しかし、第一次世界大戦以降、戦争は総力戦となり、前線と銃後(国内などの戦場ではない地域)の違いは明確ではなくなりました。戦争で傷付くのは、戦場に出ている軍人や軍属ばかりではなく、民間人も同様の戦争形態となったのです。太平洋戦争においても、戦争によって体に傷を負ったり、親族が無くなったり、また財産を失ったりした民間人が大勢出ました。そのような人々は、戦後間もなく、生きるために国(日本政府)へ補償を求めて動き出しました。しかしほとんどの場合、
先の大戦では国民全員が等しく何らかの被害を被った。したがって特定の人々を特別扱いすることはできない。
という、いわゆる「受忍論」(じゅにんろん)に妨げられ、補償を受けることはできませんでした。同じ戦争で傷ついても、軍人・軍属に対しては手厚い補償がなされ、一方の民間人は一般的な社会保障以上の手当はない。これは差別であるとして、様々な戦争被害者たちは、今に渡るまで補償や国からの謝罪を求めて、活動を続けています。
💡 民間人への戦後補償の概要はこちら ➡ 「【概要】旧軍人・軍属、民間人被災者の戦後補償-放置される民間人」
「戦後補償裁判 民間人たちの終わらない「戦争」 (NHK出版新書)」は、様々な戦争被害に遭った民間人たちの、戦後の「戦い」の記録を克明につづった大作です。
著者は毎日新聞の記者で、関係者への膨大な取材を元に、戦後補償に関する連載を何度も紙上で発表してきました。本作はその集大成と言えます。丹念なインタビュー、数え切れないほどの裁判や議会の傍聴、膨大な資料からの読み解き、これらをコツコツと積み重ねた記者の丁寧な仕事によって、補償を求め戦い続ける人々の熱と息遣いが伝わってきます。
扱っている主なテーマは、民間人の在外財産、原爆被害者、大空襲被害者、シベリア抑留、外国人元日本兵、戦没者遺骨、沖縄戦民間被害者など、実に多岐にわたります。
そして各テーマに通じる、日本政府の補償への姿勢が浮き彫りになっていきます。戦後日本という国は何を大事にし、何を切り捨ててきたのか。民間人の戦争被害者は、国にどのような扱いを受けてきたのか。戦後72年、今もなお続く「戦争」の生々しい姿を、この本は伝えてくれます。
【もくじ概要】
- 第一章 「一億総懺悔論」の誕生と拡大
- 第二章 大空襲被害者への戦後「未」補償
- 第三章 シベリア抑留と「受忍論」
- 第四章 「元日本人兵士」たちの闘い
- 第五章 置き去りにされた戦没者遺骨
- 第六章 立法府の「不作為」
- 第七章 終わらない戦後補償問題
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