「私は貝になりたい」(1959年版)は、モノクロの東宝映画。監督橋本忍、主演フランキー堺。1958年に放送された同名のテレビドラマに引き続き制作されました。その後も1994年にドラマ版が、2008年には映画版がリメイクされるなど、根強い人気を誇っています。
この作品は、元陸軍中尉、加藤哲太郎氏の手記「狂える戦犯死刑囚」の遺言部分を元に、橋本忍監督が創作したものです※。実際に起きた事件になぞらえてはいるものの、話の展開を含め、内容は基本的にフィクションです。しかし、BC級戦犯裁判の雰囲気を今に伝える作品となっています。
※以上出典:Wikipedia
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あらすじ
主人公は高知で妻と床屋を営む、普通の男性。太平洋戦争も終盤を迎えた頃、徴兵を受け、最下級の二等兵として本土の防衛に当たります。ある日、本土空爆を行ったB-29が撃墜され、落下傘で降りてきたアメリカ軍兵士2名が捕虜になります。捕虜は負傷して自力で動けなかったため、司令官は「適当に処分せよ」とだけ現場の指揮官に伝えます。
現場の指揮官は、「適当に処分せよ」を「処刑せよ」という意味であると受け取ります。そして、主人公ともう一名の兵に、一人ずつ銃剣で刺殺することを命じます。主人公はいったんはひるみますが、上官から鉄拳制裁(げんこつで顔を殴ること)を受け、ついに命令を実行に移します。
戦後、高知に戻った主人公は、再び理容師として働きます。平和な時代がやってきたと、毎日仕事に精を出していましたが、ある日突然、警察に連行されてしまいます。そしてB-29搭乗員であった捕虜を殺害したことで、戦犯容疑がかけられたことを知ります。
裁判では、自分は上官に命令されただけであること、日本軍において命令に背くことはできないことなどを訴えます。命令に従っただけで有罪にされるわけはないと思っていた主人公に下された判決は、まさかの「絞首刑」(映画の中では、”be hanged by the neck until dead” (死ぬまで首を吊られる)と言い渡される)。絶望の淵に叩き落された主人公は、なんとか裁判のやり直しを求め、訴え続けます。そして時間は経ち、巣鴨刑務所(戦犯を収容していた「巣鴨プリズン」)内で死刑が行われることもほとんどなくなったうえに、近いうちに講和条約が結ばれて日本が主権を回復する見通しもあったことから、刑が執行されることはないだろうと安心していた矢先、突然刑の執行が伝えられました。
死刑台に向かう前、主人公はこう遺書をしたためました。
せめて生まれ変わることができるなら
お父さんは生まれ変わっても
もう人間なんかにはなりとうありません
こんなひどい目にあわされる
人間なんて嫌だ
牛か馬の方がいい
いや 牛や馬ならまた人間にひどい目にあわされる
いっそ 誰も知らない深い海の底の貝
そうだ、貝がいい
深い海の底の貝だったら
戦争もない
兵隊に取られることもない
房江や健一のことを心配することもない
どうしても生まれ変わらにゃならんなら
私は貝になりたい
フィクションではあるけれど
上述したように、この話はフィクションです。似た話はありますが、実際に手を下したのは二等兵ではなくもっと上級の士官であったり、また手を下した士官は再審で減刑されたりしたため、「B-29搭乗員の捕虜を二等兵が殺害し、BC級戦犯裁判で死刑になった」という事実はありません。したがって、この話どおりのことが起きたというわけではないので、その点はご注意ください。
一方で、この映画はBC級戦犯裁判の矛盾点や、そもそも戦争とは何なのか、という重要な問題を提起しています。まず、軍隊では上官の命令に従うのは当然で、命令に背けば軍法会議にかけられるなど、厳しい処罰が待っています。場合によっては死刑です。しかし、その命令が国際法に違反していたり、倫理的に明らかに間違っているものだとしたら、命令を受ける側はどうすればよいのでしょうか?そして、祖国が戦争に負ければ、命令に従った結果、今度は相手国によって死刑や重罰を科される。命令に背くも死、守るも死という、究極の選択です。BC級戦犯裁判では、多くの将兵がこのように上官の命令に従った結果として罰を科されました。
さらに、映画の中で、検察が被告である主人公に対して、「あなたは上官の命令に異議を唱えることもできたはずだ」という趣旨のことを言われるシーンがあります。これは連合軍が日本の戦犯を裁くに当たり、実際にその点を論点の一つとして持ち出しています。しかし、当時の日本軍にとって、上官の命令は天皇の命令であり、守らないということはほとんどありえません。勝者が敗者を裁くという構図の中で、日本側の事情は十分には考慮されませんでした。
この他にも、当時の一市民生活や市井の雰囲気、巣鴨プリズンの様子など、脚色はあるにせよ様々なことをこの映画で感じ取ることができます。太平洋戦争の一つの帰結としての戦犯裁判を知る、手がかりのひとつとして、また、戦争とは、国家とは何か、考える際の題材の一つとして、この映画は現代にも多くのメッセージを発しています。
そして、映画のタイトルにもなっている「私は貝になりたい」。このような心境に、どうやったらなってしまうのか。言葉では言い表せないほどの苦しみと、不条理を感じた人でなければ、このような言葉は出てこないと思います。平和な時代に生きる私たちは、この言葉を発するような気持ちを本当の意味で知ることはできないのかもしれません。しかし、この映画を通じて、少しでもそのような境遇に思いをはせることができれば、理不尽な思いをかみしめながら絞首台に立った幾百の元将兵たちの心の声が聞こえてくるのかもしれません。
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※本作は白黒映画です。
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