「風立ちぬ」は、2013年に公開された宮崎駿監督のアニメーション映画。原作は同監督の同名の漫画です。
零戦(れいせん、ぜろせん)の設計士として知られる堀越二郎氏をモデルに、堀辰雄氏の同名の小説の着想も取り入れて作られました。堀越二郎がモデルになってはいますが、ストーリーは完全に創作です。DVDはこちらから ➡ 風立ちぬ [DVD]
私はそういった背景を知らなかったので、多少脚色はあるにせよ堀越二郎の人生を基本的にそのまま描いているのかと思っていました。しかし、冒頭からファンタジーな始まりだったので、最初は正直がっかりしました。ただ、創作だと思って観ると、なんとも心地よい映画です。
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二郎(声:庵野秀明)の生きるリアルの世界と、夢の世界が行ったり来たり。夢の中で、実在のイタリア人設計士カプローニ(声:野村萬斎)とやり取りをします。カプローニさんがまた軽快な性格で心地よいのですが、出てくる飛行機がハチャメチャなので、創作なんだろうと思っていたところ、実際に作っていたんです…
こんなのとか・・・
うん、羽が三枚あるけど、こういうのはまだありそうですね。
でも、↓はほんと驚きました…
これに100名乗客乗せて大西洋を横断する計画だったらしい… 現代のスマートな飛行機を見慣れてしまうと、この飛行機が成功するとは思えないけど、こういう遊び心を実現させてしまうところがいいですね。きっと宮崎駿さんもこういう楽しい飛行機を作品の中で描きたかったんだろうなあと思いました。
ちなみに本物のカプローニさんはこんな顔(´・ω・`)
そんな風に、実在と虚構を行ったり来たりするので、この映画の何が本当で何がフィクションなのかはよく分かりません。ので、まだ観ていない方は正しいかどうかは気にしないで観るのが一番良いでしょう。正しいかどうかと言えば、この映画には喫煙をめぐって議論があったそうです。登場人物の多くが常にプカプカタバコを喫っているのですが(学生の時から)、特に結核を患う二郎の妻菜穂子(声:瀧本美織)の横で二郎が喫煙するシーンが問題になったとか。私は非喫煙者でタバコの煙が大嫌いだし、健康にも医療費に負担かけている点でも全廃してほしいくらいですが、この映画について言えば時代背景として喫煙が当たり前の時なので、全然気になりませんでした。問題とされるシーンについてもです。個人的にこの議論はあまり関心がないので、関心ある方は詳細はこちらの記事で確認ください。「タバコとアニメとナチスの香り 『風立ちぬ』批判への反論と宮崎駿論」
作品の内容に戻りますが、この作品の魅力でもあり、つまらないと感じる人がいればその原因ともなると思うのですが、二郎が非常に淡々と描かれ、汗臭さが感じられません。人間らしくないというか、ロボットみたいなところがあります。私はそれが映画全体の雰囲気とマッチしていて進めば進むほど好きになっていきました。
また、堀越二郎モデルの映画とあって、零戦の設計の話なんかが中心にあると思っていたのですが、設計の場面よりも、関東大震災の時や失敗して軽井沢で休暇を取っている時のシーンなどが長く、前半は間延びしている印象でした。そして肝心の零戦は、エンディング間近になってカプローニさんとの夢想シーンで現れるだけなのです。かなり意外でした。
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いずれにしても、多くを期待せず(笑)、のんびりと天才設計士の夢想を楽しむ感じで観ると楽しい映画だと思います。
私が心に残ったシーンをいくつか紹介します。
- 同僚の本庄(声:西島秀俊)と日本の貧しさについて語り合うシーン
(戦闘機)隼(はやぶさ)の取付け金具一個の金で、その娘の家ならひと月は暮らせるよ。
今度の技術導入でユンカース社に払う金だけで、日本中の子供に天丼とシベリア(当時のお菓子)を毎日食わせてもお釣りがくる。
西洋より20年は遅れているという技術者の焦り、貧しい国日本が無理して高度な技術を手に入れようとしている様子が随所に描かれていました。
- カプローニさんの言葉
センスは時代を先駆ける 技術はそのあとについてくるんだ
想像的人生の持ち時間は10年だ
なるほどな、と。
- 里見菜穂子と避暑地で
二郎「虹なんかすっかり忘れていました」
菜穂子「生きているって素敵ですね」
私もこんなセリフがすっと吐ける感性が欲しいものです…
また、この映画の隠れた名俳優は、二郎の上司の黒川さん(声:西村雅彦)でしょう。二頭身でいつも特徴的な髪を浮かせながら歩く姿には、笑みがこぼれます。この映画に味付けしている面白いキャラクターです。
二郎の設計した飛行機のテストフライトが成功した時、技術者たちの「やったー!」「おめでとー!」の叫び声がこだまします。国を背負った技術者たちは、自分たちの手で新たな飛行機が飛び立った時、心底嬉しかったことでしょう。
一方で、本庄のこんなセリフもあります。これが設計士の本音だったかもしれません。
俺たちは商売や戦争のために飛行機を作っているんじゃない。ただ良い飛行機を作りたいだけだ。
試作機の成功からシーンは一気に飛び、空襲で廃墟となった日本では飛行機の墓場が現れます。飛行機に青春の夢をかけた設計士たちの気持ちはいかばかりだったでしょうか。
唯一零戦が登場する最後の空想シーン。
カプローニ「これが君のゼロか。美しいな。」
二郎「一機も戻ってきませんでした。」
それでも、菜穂子が「生きて」と語りかけます。夢は敗れても、命ある限り新しい仕事はできる。そんなことを言いたいのかな、と思いました。
photo: wikimedia, public domain
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