【インタビュー】田所智子さん(戦場体験放映保存の会 事務局次長)-ボランティアだけで作った2600人の戦場体験記録




 

3.体験を「手に取りやすいもの」にすること、そしてそれによって「失われるもの」

 

―戦争体験を伝えていく上での悩みは何でしょうか?

実際に二時間話をずっと聞くのって、大変な労力がかかりますよね。さらに一対一でいるときに比べ、動画だけで観るのは余計大変です。そこは難しいところで、私たちも話を分かりやすいものにとか、手に取りやすいものにするということは必要だと思っています。

その方が絶対に訴求力は高まるけれど、一方でそれによって失われるものが間違いなくいっぱいあって、それらを天秤にかけてどういう形で見せるのがいいのかというのは、結構悩んでいるところですね。

思想的に何か短く切り取るとかそういう話じゃなくてもね、例えばマスコミで記事なんかにするときって、やっぱり一番際立つところを切り取って先鋭化して、わかりやすい形で提示しますよね。それが戦争の怖さを伝えるうえで、わかりやすいところがある一方で、多分そういうのは身近な人の体験だということの感覚を遠ざけている部分があります。

長く2時間聞いていたら、「ああこの人は犬をかわいがったりする人だけど、こういう場面ではこういうこともするんだな」、というようなことを一体で理解するのが、本当は理解としては一番いいなと思うけれど、それは聞く側もエネルギーと手間暇がかかるじゃないですか。そこの天秤をどこら辺で釣り合わせるのが一番いいのか、効果的なのか、というのは一番悩みどころです。

大本は一番長い元のバージョンを残しておくという原則は変わらないんだけれど、その入り口のきっかけとしてわかりやすいものをいくつか作らないといけないんだろうなと思いつつ、手が回っていないという状況です。

今のところイベントがその代わりにみたいなところもありますが、イベントの中の証言のパネルだって元々聞いた話を文字起こしたものから言えば、10分の1とか20分の1とかだけれど、あれでもやっぱり長いし、読みづらいという指摘はあります。その一方で言葉遣いとか言い回しとかはそのまま残してパネルを作るようには最近はしているんですけどね。

 



 

戦場体験を身近に感じるイベントとしての「茶話会」

―難しい問題ですね。でも元の体験証言をお持ちになっているというのは本当に強いところだと思います。ウェブのアーカイブ作りとキャラバン以外にされていることはありますか?

集めたものを見てもらうための場所として展示会や講演会をやってきました。それから日比谷公会堂と中之島公会堂で、一人五分くらいの持ち時間で90代20人リレートークというのをやりましたよ。

 

―90代20人ですか!?すごいですね(笑)。

はい、そうなんです。みなさん話したいことが入りきらず、時間を守ってもらうのがとても大変でした(笑)。そういうタイプのイベントは見せる感じですよね。大きな場所で。

私たちの活動を多くの方に知ってもらううえでは宣伝効果もあるし、体験は十人十色だと知って貰えることもよかったんですけれど、もっと密接なところで一対一で聞くとか、質問もできるとか、身近に感じるイベントをやってほしいと、わりと新しく入ってきたボランティアから意見があって、じゃあそういうのをやってみようかって。それで去年の秋「茶話会」(さわかい)をやってみたんですけど、それが大人気で。いろいろやってたどり着いた感じですかね。講演会と茶話会は全然違いますね。

茶話会は効率は悪いと思うんですよ。いっぺんに話せる相手が多いわけじゃないし。体験者の方も一日三回とか同じ話しているから。だけど身近に感じられる雰囲気とか、自分が参加している感が違うのかな。たとえそんなに質問できなかったとしてもです。それで茶話会は去年反響がすごくあったので、じゃあ今年は茶話会シリーズをやろうということになったんです。

仙台、福岡、大阪、もう一回東京。東京はこの間(編集注:6月23日~25日)沖縄戦をテーマに開催したけど、15年戦争全体のをもう一回やって、合計で2017年は5回やる予定です。1年間に5回の茶話会というのは、うちの団体としては財政的にも人員的にも狂気の沙汰なんですけれど(笑)。

今年話していただいた体験者の方が、来年やったら必ず何人か減ってしまうわけだから、それであれば今年がんばってできるだけやって、来年のことはまた来年考えようか、という感じです。

戦場体験放映保存の会 茶話会
2017年6月23日~25日東京・浅草で開催された「茶話会」の様子。テーブルごとに体験者の方のお話に大勢の参加者が熱心に耳を傾けていた。3日間で800名ほどが参加した。

 

介護施設の開拓に挑戦中

他の活動として、まだ全然できているわけではないのですが、介護施設をいかに開拓するかが課題です。介護施設に行けばまだ体験談を話せる人がいっぱいいるんです。これまで話すと言っていた人たちが施設に入ってしまうと環境として話すことができなくなってしまうケースが結構あって、なんとか介護施設の中で話したいと思っている方の話を聞きたいです。

高知に長老大学という介護施設があって、普通は輪投げとか歌を歌ったりしている時間を、聞き書きをやっているという変わった介護施設なんです。戦争の話だけではなくて、全般の昔の暮らしとかその地域の食べ物とか作り方とか、そういうのもやっているみたいなんですが、塗り絵とかだと参加したくないという、ちょっと気難しいお年寄りにも大人気だそうです。たしかに、入所者の方たちから話を聞けば、介護している側、されている側の人間関係が変わるだろうなと、私たちも話を聞いている身として容易に想像がつくんですね。

目の前にいる人が、今の時点ではあれができないとかこれができないとか目立っちゃって、色々できないことばかり気になっちゃうだろうけど、でもその人が若いころはこういう生活をしていたとか、フィリピンでこんな風に戦争を生き残ってきたんだとか、そういうこと知ったら人間関係は変わるじゃないですか。そうするとお互いのためにも多分良いことだと思います。戦争の事とかだけじゃなくて。そのことを介護業界に訴えたいんですけれど、受け入れてくれるところ見つからなくて困っています。

 

次は ➡ 4.一人ひとりの関わりは薄くても、たくさんの人が関われる会にしたい

 






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